とはありますが

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とはありますが


「エムサットの盗賊たちのあいだで、プラタイムと同じような地位にある男です。ちょっと変わっていますが、きわめて知的で、高い教育も受けています」
「二人が昔の貸しを取り立てれば、もっとあちこちから応援が集まると思うな。プラタイムはヴァーデナイスやデモス、それにレンダやカードスあたりからも人を集められる。田舎のほうで仕事をしてる追《お》い剥《は》ぎ連中は言うまでもないしね」
 ティニアンが考えながら口を開いた。
「街の防備を任せるといっても、それほど長いことじゃない。エレニア軍が戻ってくるまでのあいだだけだ。やることといっても、実際には威嚇程度にしかならないだろう。アニアス司教にしたって、ここで一騒ぎ起こすだけのために、カレロスから千人以上の教会兵を送り出せるとは思えん。街の城壁の上に兵員が配備されてるのを見ただけで、向こうの攻撃意欲は萎《な》えてしまうだろう。なあ、スパーホーク、この子の計画は抜群だと思うがな」
「お誉めいただいて光栄の至りです、サー?ティニアン」タレンは大袈裟《おおげさ》に頭を下げて見せた。
「シミュラにも退役軍人はいますからね」とクリク。「そういう元軍人たちも、職人や農民を指揮して街を防衛するのに一役買ってくれるでしょう」
「もちろん、まったくもって異常な事態ではあるがね」レンダ伯は自嘲《じちょう》ぎみだった。「これまで政府の目的といえば、ただひたすら一般庶民を支配下に置き、政治にはいっさい口を出させないようにすることだった。平民の唯一の存在理由は、仕事をして、税を払うことだったのだ。もしかするとわれわれは、生涯後悔しつづける破目になるようなことに手を出そうとしているのかもしれんな」
「だが、ほかに何か手がありますか」ヴァニオンが尋ねる。
「いいや。あるとは思えん」
「では取りかかりましょう。レンダ伯、手紙のほうをお願いしても構いませんかな。それからタレン、おまえはそのプラタイムとかいう男に会ってきてくれ」
「ベリットを連れてってもいいかな、ヴァニオン卿」少年は若い見習い騎士のほうを見やった。
「構わんと思うが、なぜだね」
「言ってみれば、おいらはある政府から別の政府に遣わされる公式使節みたいなもんだろ。大物っぽく見えるように、随行員のようなものがいると思うんだ。プラタイムはそういうところに感銘を受けるからね」
「ある政府から別の政府だって?」とカルテン。「おまえ、本気でプラタイムのことを一国の長だと考えてるのか」
「だってそうじゃない」
 仲間たちがぞろぞろと部屋から出ていくとき、スパーホークは軽くセフレーニアの袖を引き、小さく声をかけた。
「お話があるんです、小さき母上」
「いいですとも」
 スパーホークはドアを閉めて戻ってきた。
「もっと早くにお話ししておくべきだったんでしょうが、最初は大したことではないと思ったものですから……」と肩をすくめる。
「いけませんね、スパーホーク。何もかも話してもらわなくては。大したことであるかないかは、わたしが決めることです」
「すみません。実はあとを尾《つ》けられているような気がするんです」
 セフレーニアの目がすっと細くなった。
「グエリグからベーリオンを奪った直後に、悪夢を見ました。アザシュの姿があって、ベーリオンも絡んでいました。そのほかにももっと――何というか――正体のはっきりしないものが出てきました」
「説明できますか」
「はっきり見えてもいないんですよ、セフレーニア。何か影のような黒っぽいものが、視野の端のほうに引っかかってるんです。ちょうど見えるか見えないかというあたりを漂っているみたいに。そいつはあまりわたしを好きじゃないという印象があります」
「夢を見ているときにだけ現われるのですか」
「いえ、目を覚ましていても時々見かけます。ベーリオンを袋から出すと現われるみたいなんです。ほかのときにも出てくるこ、袋を開けたときはかならずと言っていいほど出現します」
「今やってみてごらんなさい、ディア」セフレーニアが指示した。「わたしにも見えるかどうか、試してみましょう」
 スパーホークは胴衣《ダブレット》の内側に手を入れ、小袋を引っ張り出して口を開けた。サファイアの薔薇を取り出し、手に握る。すぐに黒い影がちらつきはじめた。「見えますか」と教母に尋ねる。
 セフレーニアは注意深く部屋の中を見まわした。
「いいえ。影から何か感じますか」
「わたしのことが好きじゃないらしいってことはわかります」スパーホークはベーリオンを小袋に戻した。「どう思います」
「ベーリオンそのものと何かつながりがあるのかもしれません」セフレーニアの返答はやや曖昧だった。「正直なところ、わたしもベーリオンについて、詳しいことはあまり知らないのです。アフラエルもそういう話はしたがりませんし。神々はベーリオンを恐れているのだと思います。使い方なら少しはわかりますが、それだけなのですよ」
「これは関係あるのかどうかわかりませんが、わたしを殺そうとしている者がいることは確かです。エムサットの外の街道にいた男たちや、ストラゲンがわれわれを尾《つ》けていると疑っていたあの船、それにカードス街道でわたしを探している者たちもいました」
「王宮へ向かう途中で、誰かにクロスボウを射かけられたこともありましたね」
「別のシーカーがいるとは考えられませんか」
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